018:ハーモニカ

 昔、小さい頃に見せてもらった記憶があった。
 初めて目にした時、銀色ですごくピカピカしてて、綺麗だなぁと思ったことも憶えてる。
 だからこそ言ってみたんだ。
「ねぇお母さん、ハーモニカ出してくれない?」


 掌サイズの紙箱は既にボロボロで、年季が入っていることは直ぐに分かる。
 そして、それに息をふぅっと吹きかけると。
「うわ、埃っぽ〜い……ケホ」
 白いっていうか、灰色の煙が舞う…。
 無駄なんだろうけど、思わず掻き消そうと手を手前で動かした。
 案の定、あんまり変わらず。
 とにかく早くこの紙箱の中身を手にしたくて、蓋を開ける。
 ――…紙箱とは違って、まだ全く色褪せていない、銀色の小さな吹奏楽器。
 知らない間に感嘆を漏らしてた。頬の筋肉が弛んでいくのも分かる。
「でも、また何でハーモニカ?」
 お母さんが、これを奥から出すために使った椅子を片付けながら訊いてきた。
 突然言ったんだから、そう訊いてきても不思議じゃないけど。
 ……でも。
「ん〜…まぁ秘密ということで」
 別に言っても支障はない。うん、ない。
 ただちょっと恥ずかしいかなぁって。
 これを見せてもらった頃の自分に、戻ってみたいだなんて。
 お母さんが莫迦にして笑うことはないと思うけど、念のため。


 部屋に戻って、ベッドに座る。
 音階なんて分からないから、とにかく今は適当。
 そっと口唇を当てて、更にそっと息を吹いた。
 微かに、ゆっくりと音が鳴る。
 あぁ、この感じ。懐かしい…。
 あんまり強く息を吹いたり吸ったら、音大きいからそっと、そっと。
 ……これ、もらっちゃ駄目かなぁ。