あと1ヶ月もすれば、4月。
とうとう私ももう直ぐで2年生。
高校に入学して、早くも1年近く経った。
つまり吹奏楽部に入部してからも1年近く経ったってこと。
私が専攻しているのは、クラリネット。
クラリネットは私と3年生の真琴先輩の2人だけだった。
尤も、人数の少ない我が吹奏楽部では、その他の楽器も1人もしくは2人ほどだけど。
今日は毎年恒例っていう話の、吹奏楽部内での送別会。
毎年卒業式が終わって1週間くらい後に、3年生の先輩に来てもらって送別会をするんだって。
……あ、もう卒業しちゃってるから、真琴先輩は『3年生』じゃないんだっけ。
部活を引退してからも、先輩は時々練習を覗きに来てくれて、アドバイスしてくれた。
すごく上手くて、恰好良くて、優しくて、入部してからずっと憧れてて。
真琴先輩みたいになりたい。先輩に、追いつきたい。
ずっとそう思ってた。
もう直ぐすれば新1年生も入ってくるから、下手なところを見せたくないっていうのもある。
新1年生でクラリネットを専攻する子がいたら、最初は私が教えなくちゃいけないっていうのもある。
先輩が卒業しちゃったから、クラリネットは私1人しかいない。
だから、どうすれば先輩みたいに上手くなれるんですか、って訊いたら。
「そんなの、教えられるわけないじゃない」
にっこり微笑んで、そう言われてしまった。
呆気に取られた私は、口をポッカリ開けたまま、真琴先輩を見つめる。
いつも訊ねたことに対して優しく答えてくれるから、余計に驚いてしまった。
「ねぇ、詩織ちゃん」
そんな私に先輩は、さっきの笑顔そのままでこう言った。
焦る必要はないよ――って。
例えば…、階段上ってて、2段飛ばししたり急いで上ったりして、途中で躓いちゃったらどうする?
そこから一気に下まで落ちちゃったら…?
今まで一生懸命上ってきたのに、頑張ってきたのに全部パァになっちゃうでしょ?
そんな危なっかしいことするより、1段1段ゆっくり確実に上った方がいいと思わない?
それに背伸びする必要なんてないんだよ、きっと。
私だって、1年生の時はド下手だったもん。
でも、絶対上手くなってやるんだって、頑張って頑張って…。
「やっぱ、上手くなりたいなら練習しかないでしょ!」
ビシッと人差し指を、私の顔の前に立てる。
教えられない、なんて言ってたけど、ちゃんと先輩は教えてくれた。
……そうだよね。
自分で頑張らないと、上手くなんて絶対なれないよね。
当たり前のことだけど気付けなかった私と、気付いていた先輩。
たった2つしか離れてないのに、見えない距離はこんなにもある。
先輩と並ぶことは無理かもしれない。
でも、この距離をどれだけ短くできるかは、きっと私次第。
「大丈夫だよ、詩織ちゃんならきっと上手くなれる。努力家だもん」
誓いをするように「はい!」って言ったら、先輩は「それでこそ私の後輩だよ!」って返してくれた。
ちょっぴり、大きくなれた日。
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